夫が帰宅するために電車に乗ったときのことです。
ひとりのボーダー系の若者が、スケートボードと共に車内でふんぞりかえっていました。
スケートボードは床でふんぞりかえり、若者は3人分ぐらいの座席のスペースを使って、股を広げ、ふんぞりかえって座っていました。
夫は座りたかったので、その若者のとなりに座りました。
すると、公共の座席であるのにもかかわらず、若者は夫に向って蚊の泣くような声で俺の隣に座るんじゃねぇ、というようなことを言ったそうです。
小さな声だったので、はっきりとは聞き取れなかったようですが、明らかに、自分の縄張りを荒らす相手に発する威嚇の言葉でした。
気の小さい夫はヤラれるかもしれない!と恐怖を感じました。
そのとき、夫の脳裏に「喧嘩相手には武器を見せないのが勝利の法則」という、友人K氏の言葉が聞こえてきたそうです。
そうだ、凶器を見つからないよう用意しておかないと!一触即発状態です。夫は慌てて、凶器になりそうな車のキーを握りこぶしに仕込むべく、ズボンのポケットをまさぐりました。
ところがそっと手のひらに仕込むはずだった車のキーは、無情にも車内に響き渡る金属音を発したのです。
ジャキッ!
ああ、狂犬のような若者に凶器を準備する音を聞かれてしまった!
もうだめだ、と思った瞬間、な、なんと、さっきまでふんぞり返って夫をにらみつけていた若者は、借りてきたチワワのようにおとなしくなったではありませんか。
足は行儀良く揃え、両手も膝の上に置いて。まあ、どこの好青年かしらというポーズです。
夫が凶器を準備するために発された金属音は、ピストルか飛び出すナイフの音に聞こえなくもなかったそうです。
その後、青年は、かるーく口笛なんぞ吹きながら別の車両に逃げて行きました。
助かった〜!
車のキーが、ジャキッ、と鳴ったとき、びびったのは夫だけじゃなかったんですね。
弱虫同士の喧嘩はこうして静かに幕をおろしましたとさ。