ほんとうに久しぶりの観劇。2年近く、劇場にも映画館にも行ってない。
丁度、コロナが静かな間に、お芝居観に行く。
天才・谷藤太主宰劇団enji「夏への扉2021」
JR中央線、東小金井駅から歩いて13分の「現代座ホール」へ向かって歩いていると、駅前で右往左往している男性がいた。
道に迷っているんだろうな、と思いつつ、コロナ禍だ、声も掛けずにスーッと通り過ぎるワタクシ。コロナ禍じゃなくても、ワタクシも初めての地だ、声を掛けたところで何のお手伝いもできない。
すると、向こうから「すみません、現代座ホールというのどの辺ですか?」と尋ねられてしまった。
ワタクシは昔から、ほんとうに昔から、街を行けばよく道を尋ねられる。
昔、一日に5回道を尋ねられたとき、ほんとうに驚いた。
仕事で行った海外で道を尋ねられた時も驚いた。なぜ、欧米でバリバリのアジア顔に道を訊く?
で、道に迷った男性、武蔵小金井駅から歩いて劇場を探して、一駅まるまる歩いちゃったらしい。
「ワタクシも行くのでご一緒しましょう」と、いうと、いやぁ~助かったと満面の笑み。
だが、ワタクシも初めての場所なので、助かったと言うのにはまだ早いですよ、と男性に言う。
劇場に行く道すがら、色々と話しかけてくる男性。
「今日の芝居に出てるんですよね、顔の四角い息子ですよ!」と、おっしゃる。
俳優さんのお父さまだ。
「息子の芝居や落語を楽しみにしているのに、コロナのおかげで久しぶりなんですよ~。顔が四角いでしょう、息子」とハイテンション父さん。
息子さんのことが大切でしょうがない様子だ。そらそうだ、お父さんだもんね。
で、元気いっぱいで「6月に妻を癌で亡くしましてね~」と。
お父さま、ハイテンションでする話ですか?
「普通、奥様をなくされると男性はショボショボになるのに、お元気そうですね、良かった」と言うと「カラ元気ですよ!」と、お父さま。
カラ元気でも、元気が出るのは良いことだと声をかけつつしていると、無事、現代座発見。
早く着いてしまったので、開演30分前まで、控室で待つことに。
一緒に来たので、控室でもお父さまと隣り合わせで座るワタクシ。
すると、包んであった袱紗から取り出した奥さまの遺影を見せて下さった。
「いや~、今日は芝居見せてやろうと思って連れてきたんですよ」と、ハイテンションで言うお父さま。
わ、お母さま似なんですね息子さん。そっくり。
と、ワタクシが言うと「妻もね顔が四角くて、息子と瓜二つですよ。息子も顔が四角いでしょ、ほんとうに」
一日に何度も「顔が四角い」という言葉を聞く。
会場に入ると、お父さまはいちばん後ろのいちばん隅っこの席に行ってしまい、私は一番最前列のど真ん中に座った。俳優さんの表情が良く見える最前列が好きだ。
谷藤太さんは無常観や死生観の料理が上手で見事な泣き笑いの世界を作る。
そして、ベテラン俳優陣の円熟の演技に、いやぁ、歳を重ねるのって悪くないね、っていつも思わされる。
人生で初めての経験だ、演技をしながら泣く俳優さんの顔を見ながら「四角い」って思って泣くの。舞台の物語とさっき聞いた物語とオーバーラップ。そこに重なる「四角い」。お父さまは妻をなくし、顔の四角い俳優さんはお母さまをなくしたばかりなんだね。
今日はいつもの3倍は泣いてしまった。
大盛況で千秋楽を迎えたそうです。
enjiのみなさま、客演のみなさま、お疲れさまでした。
☟芝居も良いけど漫画も読んでね。